色の概念の更新 / New Expressions and Concepts of Color
2018
FEATURED WORKS
呼応する小宇宙 - 液化された光の色, Dusk to Dawn / Resonating Microcosms - Liquified Light Color, Dusk to Dawn
teamLab, 2020, Interactive Digital Installation, Sound: Hideaki Takahashi
日の入りと共に、ovoidは、自ら光り輝き出す。人に押されたり、風に吹かれたりして倒れると、音色を響かせ、その音色特有の光を輝かせ、自ら立ち上がる。その周辺のovoidも次々に呼応し、同じ音色を響かせ、同じ光を輝かせ、連続していく。そして、周辺の《呼応する木々》も呼応し、同じ色に変化し音色を響かせながら、変化していく。
ovoidは、風が静かで人々が何もしない時、ゆっくりと明滅をはじめる。
ovoidは、光だからこそ発色できる57色の「液化された光の色」で変化していく。
共鳴する茶 - 動的平衡色 / Tea in Spontaneous Order - Dynamic Equilibrium Color
teamLab, 2021, Interactive Installation, Endless, Sound: teamLab
茶の光の色は、チームラボが提唱する新しい概念の色「動的平衡色」。遠くから茶を見た時、つまり、一服の茶を全体で見ると、光の色は変化せず同じ色であり続けるが、茶を凝視した時、つまり、極小で見ると、光の色は常に変化し続け、時間の概念が生まれる。
引き込み現象とは、異なるリズムが互いに影響を受けてそろっていくこと。壁にかかった2つの振り子時計の振り子がだんだん揃っていくこと、1本の木にたくさんホタルが集まると皆同じタイミングで点滅をはじめて大きな光を作り出すこと、心臓を構成する細胞たちが同期して同じタイミングで震えることによって心臓の拍動が生み出されていることなど、物理現象、神経生理、生命系や生態系など多様な系で見られる。個々が全体を俯瞰する能力を持たないにも関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象である自己組織化であり、自発的秩序形成とも言える。
本来宇宙では、エントロピー(無秩序の度合いを表す物理量)が極大化に向かうとされ(エントロピー増大の法則)、形あるものは崩れていくのが摂理だ。しかし、それでもこの宇宙や生命、自然や社会が成り立っているのは、無秩序に向かう中で、自己組織化という共通の現象によって、ひとりでに秩序が生まれているからかもしれないのだ。つまり、この宇宙も、自分の存在も、同じ現象によって連続的に生まれた秩序なのだ。
teamLab, 2018, Interactive Installation, Endless, Sound: Hideaki Takahashi
空間は、自由に浮遊する光の球体によって埋め尽くされている。人々は球体をかき分け、空間の中に入っていく。
色の変化の中で、空間は、球体の集合による立体と色の平面とを行き来する。
球体は、人々がかき分けたり、叩いたりして衝撃を受けると、色を変化させ、色特有の音色を響かせる。そのまわりの球体は、近くの球体から、放射状に連続的に呼応し、同じ色になり同じ音色を響かせていく。
各球体が自由に移動し、どこにあったとしても、空間全体として光のふるまい(球1つを1ドットと考えた3次元的な映像表現)は維持される。そのため、集団としてふるまう光は、ひとつの立体的な存在とも言える。今回は衝撃を受けた球体を中心として球状に光が広がっていく。
そして、その立体的な存在の構成要素である球体の物理的な位置は自由であるため、人々は、立体的な存在として認識しつつ、球体をかき分け、その立体的存在の中に入っていく。
浮遊する球の集合である空間の形状は、人々のふるまい(押しのけたりぶつかったり)によって変化する。また、球体の集合のもつれ具合を判断し、風と気圧変化によって、球体は、低層で高密度になったり、一斉に高層に上がったりと、空間も自ら空間の形状を変えていく。
近代以前、日本では「かさねのいろめ」という、表の色と裏の色の組み合わせ(当時の絹は薄かったので裏地が透けたため複雑な色彩となった)や、重なる色彩のグラデーションなど、曖昧な色彩に、季節の色の名前がついていた。球体は、光だからこそ発色できる曖昧な9色(水の中の光、水草のこもれび、朝焼け、朝空、たそがれ時の空、桃の実、梅の実、花菖蒲、春もみじ)と、空間を平面化する3色(青、赤、緑)の計12色の色に変化していく。
空中浮揚 - 平面化する赤と青、曖昧な紫 / Levitation - Flattening Red and Blue & Blurred Violet
teamLab, 2021, Digital Installation, Sound: Hideaki Takahashi
作品空間に、生命と同じように、エネルギーの秩序を創った。
球体は、何にも吊られていない。それにもかかわらず、球体は、エネルギーの秩序によって、質量の概念を超越し、空中に浮上し、地面でも天井でもない空中の中ほどに静止したり、空中を上がったり下がったりを繰り返す。球体は、人々が叩くと飛んでいき、地面に落ち、転がっていく。しかし、何も邪魔がなければ、自らの状態を修復するかのよう、再びゆっくりと空中に上がっていく。
そして、球体は、立体と平面の間を行き来する。
生命とは何か。例えば、ウイルスは、生物学上の生命の最小単位である細胞を持たないことや、自己増殖することがないことから、生物と無生物の境界領域に存在するものと考えられている。生物と無生物を分かつものが何であるかは、生物学上、未だに定義ができない。
一方、あなたが明日もあなたであり続けているのは、形あるものが崩れていく「エントロピー増大の法則」に反している。つまり、エントロピー(無秩序の度合いを表す物理量)が極大化に向かうとされている宇宙の中で、生命とはその方向に反している存在なのだ。生命は、古典的な物理の法則に反する、超自然現象である。
1977年にノーベル化学賞を受賞した化学者・物理学者のイリヤ・プリゴジンは、自然界には外部からエネルギーを取り入れて、内部でエントロピーを生産し、そのエントロピーを外に排出することによってのみ形成され、非平衡状態の中で維持されるある種の秩序・構造が存在する事を発見した。エネルギー(および物質)を外部に散逸させてエントロピーを外部に捨てることによって内部のエントロピーを減少させて秩序を作り出す。生命体は外部から食物としてエネルギーを取り込み、排泄物としてエントロピーを外部に捨て、エントロピーを維持しているとも言える。
生命とは、外部の環境と連続的である、エネルギーの秩序であるかもしれないのだ。
そして、生命の存在そのものが物理の法則に反する超自然現象であるがゆえに、作品空間にエネルギーの秩序をつくると、球体はまるで物理の法則に反する超自然現象かのように万有引力に逆らい、ゆっくりと浮き上がり、空間の中ほどに留まったり空中を上下したりする。
目前で起こっている(自然界の法則を超えた現象という意味の)超自然現象をただ観る時、認知そのものが変化していく。そして、その認知の変化があなたを「日常とは違った状態」へと導くだろう。
作品による認知の変化を模索する。